2014年6月3日

4つの層で考える戦略的で柔軟なまちづくり・むらづくり(第1回)

本稿のねらい

本稿のねらいは,国土利用再編の核となる,地方のまちづくり・むらづくり(以下,単に「まちづくり」と記す)を,より戦略的に,より柔軟にすることである。まず,筆者が考えるまちづくりのモデルを示す。最後に,このモデルと現実を比較することで,現実の問題を浮き彫りにする。

ここでは,「外部から期待されている役割を意識しながら,自分たちの価値観に基づいて将来像(あるべき姿)を設定し,それに向かって行動するまとまり」を「モデル的自治単位」と呼ぶことにする。以下,一つのモデル的自治単位,たとえば,住民の四散が危惧されるような山間地の小集落のまちづくりについて説明する。

戦略的で柔軟なまちづくりの4つの層

メンバーが「やりたいこと(Will)」「できること(Can)」「やらなければならないこと(Must)」を出し合って円交差チャートで整理していくワークショップ技法,「ウィル/キャン/マスト」(1)は,価値観による選択(Will)と実現性による選択(Can)を区分しているという点で示唆に富む。

まちづくりに限られたことではないが,力をあわせて何かを実現する場合,将来像に関する価値観が支配する層(Will層)と,実現性が支配する層(Can層)は,明確に区別したほうがよい。理想的なまちづくりは,次の4つの層,(1)将来像の選択に関する価値観を顕在化させる層,(2)価値観に基づいて将来像を選択する層,(3)実現性に基づいて手段を選択する層,(4)手段を精緻化して実行する層で構成されるべきと考えた。

第1層:将来像の選択に関する価値観を顕在化させる層

まちづくりに関する価値観には少なくとも,将来像の選択に関する価値観,手段の選択に関する価値観の2種類があり,前者については「地縁が守られることをよしとする」や「荒れ地にならないことをよしとする」,後者については「一気に進める」や「段階的に進める」といったものが考えられる。ただし,最終的な結果を大きく左右するものは前者である。説明を簡単にするため,本稿では前者(将来像の選択に関する価値観)に注目する。以下,単に「価値観」と記した場合,前者を指すこととする。

まちづくりの第1層は,まちづくりの対象を意識し,それについての当事者全体の価値観を顕在化させ,重要なものを短いことばにまとめる層である。第1層の結果は,第2層を大きく左右する。顕在化すべきは,当事者全体の本音であり,建て前ではない。ただし,重要な価値観を抽出することは案外難しい。第1層では,いささか逆説的であるが,最悪の事態を想定することを推奨したい。最悪の事態がはっきりすれば,最も重要な価値観もすぐに見つかるはずである。

当事者全体の価値観は,無数の会合を経て,ゆっくりと変化するものであり,外部の力で操作することは不可能である。外部の支援者(例:ファシリテーター)は,あくまで,顕在化の支援に徹するべきである(2)。あえていえば,文化人類学の研究者が得意とする層である。なお,当事者全体の価値観が時代に合わなくなった場合は,遠回りに見えても,時間をかけて価値観を再構築しなければならない。

わが国の共同体は,自然と人間の共同体であるといわれる(3)。わが国の自然は非常に多様であるため,共同体の性格も一様ではない。よって,いつくかの共同体で一つのモデル的自治単位が形成されている場合は,価値観を顕在化させる前に,お互いを心から理解する段階が必要となる。

第1回は,ここまでとしたい。最後に,第1層の要点を記す。(1)当事者全体の価値観を顕在化させ,重要なものを短いことばにまとめる。(2)外部の力で当事者全体の価値観を操作することは不可能である。

(1) 堀公俊・加藤彰『ワークショップ・デザイン』日本経済新聞出版社,2008
(2) 稲垣氏は,地域振興の支援を「足し算の支援(自己の本質を問い直す手伝い)」と「掛け算(都市との交流,グリーンツーリズムなど)の支援」に分けた。第1層への支援は「足し算の支援」に近いことを付け加えておく。稲垣文彦「サンタクルーズと荒谷―地域振興における足し算の支援と掛け算の支援」『復興デザイン研究』第4号,p. 7,2007
(3) 内山節『共同体の基礎理論-自然と人間の基層から』農山漁村文化協会,2010

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投稿日時
2014年6月03日 11:37
カテゴリ
論説
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